千光士農園 Blog

2022/05/10 10:17

土佐文旦は、自家不和合性が強くて、単位結果性が低くて、他家受粉が必要な柑橘の1つです。言い換えたら、自分の雄しべの花粉で雌しべに交配しても果実がならなくて、他の柑橘類の花粉が土佐文旦の花の柱頭につくことによって、交配することによって、種が入り、土佐文旦の樹に、土佐文旦の果実が安定して着果します。土佐文旦農家にとっては、人工授粉はとても大切な大事な作業になります。とても手間暇がかかるし、短い花の時期にたくさんの労力を集中的にかけて、受粉をしています。雨が降ったり、雨の後は樹が濡れているので、濡れると花粉がダメになってしまうので、降雨後も受粉はできず、大きく天候に左右される作業でもあります。


これから人工授粉してみたいな、文旦の栽培に興味があるな、人工授粉(交配とも言っています)ってどのようにするんだろうって方向けに、今回のブログの記事は、千光士農園での人工授粉の仕方、方法を書いています。

小夏の蕾を採る→小夏の蕾から葯をとる→開葯する→石松子と混ぜる→文旦の花に授粉する、という流れになります。

土佐文旦の人工授粉には、受粉樹として小夏(日向夏、ニューサマーオレンジ)の花粉を使っています。小夏をあまり植えていなかった時は、ハッサクの花粉を使っていました。なので、まず、小夏のつぼみを採ります。明日咲くような蕾が葯の中に花粉がいっぱい作られてて理想です。

小夏のつぼみを採ったら、次は、このつぼみから雄しべの先にある葯のみを採っていく作業になります。採葯機という機械を使って、つぼみをから葯をとっていきます。

がらがらがらと賑やかな機械ですが、受粉に必要な1番の機械です。
採葯機をかけ終わったら、ツボミから葯がとりだされます。



採葯機完了です。黄色い小夏の葯以外にも、白い花弁(花びら)や、花糸とよばれる葯の下にあるもの、雄しべの葯はすべて花糸のさきっぽにあります。が、いっしょにでてきます。この白いのが水分を多く含んでいるので、後々災いを起こすので、これからは、葯以外のもの(僕たちはゴミとよんでいます)を採っていきます。

このゴミとり作業に必須なのが「ふるい」です。ホームセンターで買ってきたものを使っています。ここで1回粗目のふるいでふるいにかけます。



新聞紙を重宝します。ふるいにかけると、大きなゴミがなくなりました。


ここでもう1つ機械が登場します。葯精選機です。これを導入してから、ふるいの時間が大幅に減りました。


バタバタバタと白糸と葯を分けてくれます。当園では2回この葯精選機にかけます。この間に、メールを打ったりインスタを投稿したりしています。。


かなりきれいになりました!けど、まだまだ葯以外のもの残っています。ここで登場するのがまたしても「ふるい」です。

細目のふるいで、繰り返し繰り返し、ゴミ取り作業をしていきます。


だいたい6~7回繰り返し繰り返し、ふるいにかけると、かなりきれいになります!

そして、最後は、ピンセットで残りのゴミをとっていきます。特に花糸は全部とります。

これが深夜作業なので、なかなか眠くて、細かくてしんどくて、大変な作業です。。きれいになったら登場するのが、開葯機です。開葯機で、乾燥と温度を当てて、葯を開葯させて、花粉をだします。この開葯機がないときは、遮光カーテンの後ろとか、こたつを活用して開葯していました。


冷蔵用と冷凍用で、時間設定を変えています。冷蔵の時(すぐに花粉を使うとき)は、25度で18時間くらい、冷凍(すぐに使わない時)は、25度で36~40時間くらいで開葯機を使っています。ここは、農家さんによってだいぶ違いもあるようで、毎年受粉に成功しているのでまぁ大丈夫かなぁと。このお皿の上には、皆、黒い画用紙を使って、花粉を見やすくしていますが、うちはとくに気にもせずあるもので代用してずっと新聞紙です。

開葯機からとりだすと、



わぁ、きれいですね。葯から花粉がでた状態の粗花粉と言われる物になります。ここから作物によっては花粉のみ(純花粉)にして受粉しているのもありますが、文旦では人力受粉ですし、この状態で、増量剤、色粉の石松子と混ぜます。きれいな色で、どの花に受粉したのかも一発で分かります。



花粉の状態、冷蔵花粉、冷凍花粉で割合を変えていますが、粗花粉:石松子の割合は、容積で1対1だと安泰です。1対2だったり、農家さんそれぞれですね。うちもその時々で変えています。



受粉のために花粉をいれる瓶は、当園では、ジャムの瓶を使っています。入れすぎないように、なくなったら都度補充する形です。あんまり暑いなかに置いて置きたくないので。クーラーボックスで冷やしてお山に持って行きます。温度と湿度に花粉は弱いです。乾燥剤も入れています。



ちなみに、これは、受粉の時に使うぼんてん(梵天)と呼ばれる道具です。そのままだと、文旦の受粉には使いづらいので、改良しています。



できた花粉を、土佐文旦の雌しべの柱頭に受粉した状態です。理想は、今日、昨日咲いたような花。樹に花がないときは少々古い花でも祈りながら受粉します。右の実になっているのは、前回に受粉して受粉成功して、ぐっと可愛いけど、力強い幼果になったものです。


このような感じで、1花1花、梵天を使い(長くしてます)、受粉していきます。人が蜂のように花粉の媒介者になります。


授粉の回数は、全園地を最低でも3周はしたいところです。文旦の花は、咲くのが早いたくさん直花が咲く樹もあれば、花が少なくて、あとから、有葉花として咲いてくる樹もあるので、まんべんなく授粉していきたいところですが、近年、5月の天気が雨が多くて、授粉のタイミングに雨が降ったり、天候に左右されてしまう結果になってしまうこともあります。

あと、文旦の樹が数本しかないけど、花は咲くけど果実がならない、果実に種はないけど果皮がとても厚い、変な形の文旦が多い、小さい文旦で果皮が厚いとか、そこで人工授粉をしてみたいな、という方もおられると思います。そのような場合は、他の柑橘類の咲いた花(昨日、今日咲いて雄しべの葯に花粉がいっぱいでている花)の雄しべの葯を、文旦の雌しべの柱頭にくっつけてやると、受粉します。蜂の代わりに、人の手で媒介して、これも人工受粉ですね。

ここまでで土佐文旦の人工受粉の一通りの作業工程になります。是非是非、皆様方の人工受粉ライフ、交配作業に、当園の方法ですが、お役に立てればと思います。

土佐文旦にかぎらず、晩白柚や紅まどか、水晶文旦などの文旦類は、農家が人工受粉をしています。是非是非、これらの柑橘類をお手にとる機会や目にすることがあれば、農家の人工受粉(交配作業)にも思いをはせてみてください。

文旦の人工授粉の作業の時期は、GW(ゴールデンウィーク)に重なることが多いので(だいたい4月下旬から5月中旬)、特にお子様のおられる文旦農家にはなかなか時間と段取りと、大変な時期になっています。文旦農家で最も大事な作業といっても差し支えない作業になります。文旦の花の良い香りに包まれながら。

文旦の種は、農家の汗と努力と涙(天候。。)と、愛の結晶です!




高知県安芸市 柑橘農家 千光士農園 千光士尚史

ちなみに、機械類は、株式会社ミツワ様の一式の機械を使用しています。ご参考までに。

読売新聞様に人工授粉の様子を取材頂きました。(2022年5月16日閲覧)